建設業許可とは?種類や要件、申請の流れをわかりやすく解説

建設業を営む上で避けては通れない「建設業許可」。しかし、「どの許可をいつ取るべきか」「要件が複雑でよくわからない」と感じる方も多いのではないでしょうか。 この記事では、建設業許可の基本的な知識から、具体的な取得要件、申請手続きの流れまでを、専門用語をかみ砕いてわかりやすく解説します。事業の成長に不可欠な許可取得への第一歩を、この記事から踏み出しましょう。

この記事でわかる3つのポイント

・建設業許可が必要になる具体的なケース
・許可取得に必須の5つの要件
・許可申請の全体像と費用感

目次

建設業許可とは?事業に不可欠な許可制度

建設業許可とは、一定規模以上の建設工事を請け負うために必要な、法律(建設業法)に基づいた許可のことです。

この許可制度の主な目的は2つあります。

発注者の保護: 不適切な業者による手抜き工事や、工事中の倒産といったリスクから発注者を守ります。
建設業の健全な発達: 許可を通じて業者の技術力や経営状態を一定の基準で担保し、業界全体の品質向上と安定を図ります。

許可を取得することは、単に法律上の義務を果たすだけでなく、企業の技術力や経営の安定性に対する社会的な信頼の証となります。金融機関からの融資や公共工事への入札参加など、事業拡大の様々な場面で有利に働く重要な経営資産と言えるでしょう。

建設業許可が必要となる工事とは?

原則として、元請・下請を問わず、建設工事を請け負い、事業として行う場合は、個人・法人にかかわらず建設業許可が必要です。

しかし、すべての工事に許可が必要なわけではありません。例外として、比較的小規模な「軽微な建設工事」のみを請け負う場合は、許可を取得しなくても営業することが認められています。

許可が不要な「軽微な建設工事」

建設業法で定められている「軽微な建設工事」は、以下の通りです。この範囲を超える工事を請け負う場合は、許可が必要となります。

工事の種類金額または面積の要件
建築一式工事① 工事1件の請負代金が1,500万円未満(消費税含む)の工事
② 請負代金にかかわらず、延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事
建築一式工事以外工事1件の請負代金が500万円未満(消費税含む)の工事
POINT
  • 消費税込みで判断:上記金額はすべて消費税込みの金額で判断します。
  • 材料費も含む:発注者から無償で材料の提供を受けた場合でも、その材料の市場価格や運送費を請負代金に含めて計算する必要があります。
  • 契約の分割はNG:500万円以上の工事を、意図的に複数の契約書に分けて金額を低く見せかける「契約分割」は、法律で禁止されています。工事全体の実態で判断されるため、絶対に行わないでください。

建設業許可の3つの区分

建設業許可は、画一的なものではなく、事業内容に応じていくつかの種類に分かれています。自社が取得すべき許可の種類を正確に把握することが、申請の第一歩です。許可は主に「行政庁」「下請契約の規模」「業種」の3つの観点で区分されます。

営業所の場所で決まる「大臣/知事許可」

これは、どこに営業所を置くかによって決まる区分です。

  • 国土交通大臣許可
    • 対象2つ以上の都道府県に営業所を設置して営業する場合
    • :東京都に本社、大阪府に支店を置くケース
  • 都道府県知事許可
    • 対象1つの都道府県内のみに営業所を設置して営業する場合
    • :本社も支店もすべて神奈川県内にあるケース
「営業所」の定義に注意

ここでの「営業所」とは、本店や支店など、常時建設工事の請負契約を締結する事務所を指します。単なる登記上の本店や、工事作業員が待機するだけの場所、資材置き場などは営業所に該当しません。実際に契約業務などを行っている実態があるかどうかが問われます。

下請契約の金額で変わる「特定/一般」

これは、元請業者として受注した工事を、下請業者に発注する際の金額規模によって決まる区分です。

特定建設業許可

必要なケース:発注者から直接請け負った(元請となった)1件の工事について、総額4,500万円以上(建築一式工事の場合は7,000万円以上)を下請契約に出す場合。
目的:大規模な工事における下請業者を保護し、工事の確実な施工を担保するために設けられています。そのため、後述する財産的要件などが厳しくなっています。

一般建設業許可

必要なケース:上記「特定建設業許可」が必要なケース以外の場合。
注意点:一般建設業許可では、下請に出せる金額に上記の制限がかかります。ただし、受注する工事の請負金額自体には上限はありません。

専門工事に対応する「29の業種」

建設工事は、その内容によって2つの一式工事27の専門工事、合計29の業種に分類されています。建設業許可は、この業種ごとに取得する必要があります。

2つの一式工事

総合的な企画、指導、調整のもとに建築物や工作物をつくる工事です。

  1. 土木一式工事
  2. 建築一式工事

27の専門工事

より専門的な個別の工事です。

3. 大工工事4. 左官工事5. とび・土工・コンクリート工事
6. 石工事7. 屋根工事8. 電気工事
9. 管工事10. タイル・れんが・ブロック工事11. 鋼構造物工事
12. 鉄筋工事13. 舗装工事14. しゅんせつ工事
15. 板金工事16. ガラス工事17. 塗装工事
18. 防水工事19. 内装仕上工事20. 機械器具設置工事
21. 熱絶縁工事22. 電気通信工事23. 造園工事
24. さく井工事25. 建具工事26. 水道施設工事
27. 消防施設工事28. 清掃施設工事29. 解体工事

例えば、クライアントから1,000万円の内装リフォームを請け負い、その中で600万円分の電気設備工事も行う場合、「内装仕上工事業」と「電気工事業」の2つの業種の許可が必要になります。

建設業許可を取得するための5つの要件

建設業許可を取得するためには、以下の5つの大きなハードルをすべてクリアしなければなりません。これらは、許可申請において最も重要な部分です。

①経営経験を持つ責任者の設置

企業の経営能力を担保するための要件です。法人の場合は常勤の役員のうち1人、個人事業主の場合は本人または支配人が、以下のいずれかの経験を持っている必要があります。この責任者を「経営業務の管理責任者(経管)」と呼びます。

パターンA:許可を受けたい業種で、5年以上の経営経験があること。
パターンB:許可を受けたい業種以外の建設業で、6年以上の経営経験があること。
パターンC:経営業務を補佐した経験(役員に次ぐ職制上の地位)が6年以上あること。

「常勤」であることは、原則として健康保険被保険者証などで証明します。また、経営経験は、法人の登記簿謄本や過去の工事の契約書、確定申告書などで証明していくことになり、客観的な資料の準備が不可欠です。

②営業所に専任技術者を配置する

許可を取得したい業種に関する専門的な技術力を担保するための要件です。すべての営業所に、許可業種に関する一定の資格または実務経験を持つ技術者を常勤で配置しなければなりません。この技術者を「専任技術者(専技)」と呼びます。

専任技術者の要件は、「一般建設業」と「特定建設業」で異なります。

一般建設業の場合

以下のいずれかを満たす必要があります。

国家資格:許可業種に対応した国家資格(例:1級・2級建築施工管理技士、第二種電気工事士など)を保有している。
学歴+実務経験:指定された学科(例:土木工学、建築学など)を卒業後、一定期間の実務経験がある(大学・高専卒なら3年以上、高校卒なら5年以上)。
実務経験:学歴や資格を問わず、許可業種について10年以上の実務経験がある。

特定建設業の場合

一般建設業の要件よりも厳しく、高い技術力が求められます。

国家資格:1級の国家資格(例:1級建築施工管理技士、技術士など)が必要となります。
指導監督的実務経験:一般建設業の要件を満たした上で、元請として4,500万円以上の工事について2年以上の指導監督的な実務経験が必要です。

③誠実な経営を行っていること

請負契約の締結や履行に際して、不正または不誠実な行為をするおそれがないことが求められます。これは「誠実性の要件」と呼ばれます。

具体的には、過去に建築士法や宅建業法などで免許取消処分を受けたり、業務停止処分期間が終了していなかったり、あるいは詐欺や脅迫といった法律に反する行為を行ったりした経歴がないことが対象です。申請者である法人やその役員、個人事業主本人がこの要件を満たす必要があります。

④安定した財産的基礎があること

建設工事は着工から完成まで期間が長く、多額の資金が必要となるため、それを遂行できるだけの財産的な安定性が求められます。この要件も「一般」と「特定」で大きく異なります。

  • 一般建設業許可の場合 以下のいずれかを満たせばOKです。
    • 自己資本(貸借対照表の純資産合計額)が500万円以上ある。
    • 500万円以上の資金調達能力がある(金融機関発行の預金残高証明書などで証明)。
  • 特定建設業許可の場合 以下のすべてを満たす必要があります。(直近の決算書が基準)
    • 欠損の額が資本金の額の20%を超えていないこと(欠損比率 ≦ 20%
    • 流動資産が流動負債を上回る割合が75%以上であること(流動比率 ≧ 75%
    • 資本金の額が2,000万円以上であること。
    • 自己資本(純資産合計)の額が4,000万円以上であること。

⑤欠格要件に該当しないこと

申請者や役員などが、建設業を営む上で不適格とされる一定の事由(欠格要件)に該当しないことが必要です。代表的なものは以下の通りです。

・許可申請書や添付書類に虚偽の記載がある、または重要な事実の記載が欠けている。
・成年被後見人、被保佐人または破産者で復権を得ない者。
・不正の手段で許可を受けた等の理由で、許可を取り消されてから5年を経過しない者。
・禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、またはその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者。
・建設業法やその他法令に違反し、罰金の刑に処せられ、刑の執行が終わってから5年を経過しない者。
・暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者。

これらの要件は、法人の役員だけでなく、相談役、顧問、支店長など、実質的に経営を支配する者も対象となります。

建設業許可の申請手続きと流れ

上記の5つの要件をすべて満たしていることを確認できたら、いよいよ申請手続きに進みます。

STEP1:申請先の行政庁を確認する

まず、自社が取得すべき許可が「大臣許可」か「知事許可」かを確認し、申請窓口を特定します。

  • 大臣許可:本社の所在地を管轄する地方整備局
  • 知事許可:営業所の所在地を管轄する都道府県の担当部署(例:土木事務所、県庁の建設業担当課など)

初めて申請する場合は、まず都道府県の窓口に事前相談に行くと、手続きをスムーズに進めやすくなります。

STEP2:申請書類の作成と収集

建設業許可の申請には、膨大な量の書類が必要です。不備があると受理されず、何度も修正が必要になるため、慎重に準備を進めましょう。主な必要書類は以下の通りです。

・許可申請書
・工事経歴書
・直前3年の各事業年度における工事施工金額を記載した書面
・財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)
・営業の沿革
・誓約書
・経営業務の管理責任者の証明書類(常勤性や経験を証明する書類)
・専任技術者の証明書類(資格者証、実務経験証明書、常勤性の証明書類など)
・役員等の一覧表、身分証明書
・営業所の確認資料(登記簿謄本、賃貸契約書の写し、事務所の写真など)
・健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入状況がわかる資料

これらは一例であり、申請する行政庁や個別の状況によって追加の書類が求められることもあります。

STEP3:窓口への提出と手数料の納付

すべての書類が揃ったら、予約の上で窓口に提出します。窓口で書類の形式的なチェックを受けた後、受理されれば本審査に入ります。

  • 審査期間の目安
    • 知事許可:約1ヶ月~2ヶ月
    • 大臣許可:約3ヶ月~4ヶ月
    • ※行政庁の混雑状況により変動します。
  • 申請手数料
    • 大臣許可(新規):150,000円(登録免許税)
    • 知事許可(新規):90,000円
    • ※この手数料は、万が一不許可となった場合でも返還されません。

審査が無事に完了すると許可通知書が届き、正式に建設業許可業者となります。

許可には有効期間があります

建設業許可の有効期間は5年間です。許可を維持するためには、有効期間が満了する日の3ヶ月前から30日前までの間に、更新手続きを行う必要があります。更新を忘れると許可が失効してしまうため、期限管理は徹底しましょう。

まとめ:建設業許可は事業拡大の第一歩

ここまで見てきたように、建設業許可の取得は、多くの要件をクリアし、膨大な書類を準備する必要がある、非常に手間と時間がかかる手続きです。

しかし、建設業許可は、500万円以上の工事を請け負うための単なる「通行手形」ではありません。公共工事への道を開き、金融機関や取引先からの信頼を高め、優秀な人材を惹きつけるための強力な武器となります。法令を遵守し、安定した経営基盤を持つ企業であることの公的な証明であり、持続的な事業成長を目指す上で不可欠なステップです。

要件の確認や書類作成の複雑さから、行政書士などの専門家に依頼する企業も少なくありません。自社で進めるか、専門家の力を借りるかも含め、計画的に準備を進め、事業拡大の大きな一歩を踏み出しましょう。

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